Mirrors of Happiness

2021年春、わたしは、北カリフォルニア、オークランドの南東端にある、プランティング・ジャスティスというナーサリー(植物栽培園)で働き始めた。

2本の貨物線路と高速道路880号線に挟まれたこの地域は、ソブランテ(余り物)パークと呼ばれ、あまり治安の良くない界隈に隣接している。高速を降り、踏切を渡り、105番街をしばらく行くと、プランティング・ジャスティスの手作りロゴが描かれた緑の看板が右側に見える。

ゲートを抜けるとスタッフが暖かく迎えてくれ、すぐに緊張がほぐれた。

わたしの仕事は、ここで働くスタッフと一緒にアートを作ること。最初に、ナーサリーにふんだんにある草花を使ってサイアノタイプ・プリント(青写真)を作った。次に、同僚のアーティスト、ケイト・ディシチョの指導で、カラフルな模様を施した蝶々のステンシル画を創作した。そうこうするうちに、みんなのアイディアが膨らんで、メンバーひとりひとりのポートレートを撮影し、ステンシルを使って巨大なポートレート壁画を作ろうということになった。

制作の合間をぬって、わたしは、園の風景、みんなが働く様子、アートを制作する過程を中判フィルムで撮影した。2023年にはロールが100本ほどになり、全ての写真をスキャンしてみると、いくつもの異なる表象形態が写っていた。人間や植物そのものの像、それらが青写真に写された像、ステンシルに切り抜かれた像、木板に着色された像、そして自分自身の肖像に向き合う人々の像。被写体のエネルギーやエモーションが、一人一人違う肌の色、木々の緑、赤や黄色の花々、サイアノのブルー、ステンシルのスプレーペンキなど多種多彩な色にのって、写真の上を漂っているようだった。

2009年に発足したプランティング・ジャスティスは、リエントリー・プログラムという元受刑者が社会復帰をするための雇用を行なっており、辛い過去や厳しい背景を持ったスタッフが少なくない。アメリカでは軍産複合体と同様、プリズン産業複合体という、刑務所と受刑者を増やすことで収益を上げるという本末転倒の利権構造が、批判されながらも大きな力を持っている。その犠牲者の多くは、黒人をはじめとする有色人種であり、低所得家庭出身の若者である。差別、貧困、暴力の蔓延する社会において、加害と被害は表裏一体で、ここで働く人々もまた、そのスパイラルにこぼれ落ちた経験をもつ。

ポートレート制作を通じて最も印象深いことは、自分の肖像が完成したときに彼らが見せる驚きと嬉しそうな様子である。社会から疎外され、アイデンティティの喪失を経験したからこそ、自信に満ちた自分の姿と相対したとき、自己の回復を喜ばずにはいられないのだろう。

 “Grow Plants Not Prisons”と描かれたサイアノタイプ・プリントを事務所の壁で目にするたびに、このシンプルな言葉がもつ真のメッセージを受け取れる人になりたいと思う。20人余のポートレート壁画はまだ完成していない。彼らの想いが、成長する植物に、進化するポートレートに、そして一人一人の目に映し出され、希望や幸福が生まれる瞬間をこれからも記録していきたい。

兼子裕代 2023

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